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「ブリーチポカリプス (大侵害時代)」の到来

ただし、その規模を測定するのは容易ではありません。

Ross McKerchar

7 日間で 7 件のインシデント

先週、筆者は経営陣に 1 つのリストを送りました。ソフォスの社内 SecOps チームは、わずか 7 日間で 7 件のインシデントに対応しました。その 7 件とは、トライアルアカウントを介したソフォス製品の悪用、ConnectWise Cloud Backup の侵害、PHP2Shell、eMudhra の脆弱な SubCA、今年 2 回目となる LiteLLM のサプライチェーン侵害、Node.js の深刻な脆弱性、そして GitLab の RCE (リモートコード実行) です。1 年前であれば、これは四半期分に相当する件数でした。

大きな影響は回避できましたが、それは一丸となり、非常に長い時間をかけて取り組んだからこそです。確かにこれは 1 件のサンプルに過ぎませんが、大手サイバーセキュリティベンダーを守る立場の筆者から見て、この傾向は極めて明白であるように思えます。

「では、影響はどこで発生したのか?」

反論として、「被害が表面化していない」という声があります。PHP2Shell については今のところ、多くの人が警戒していたような大規模な悪用は発生していません。Simon Willison 氏が用いた表現である「チャレンジャー号の惨事」、つまり、「逸脱の常態化」に終止符を打つような重大な出来事は、まだ起きていません。Tal Be'ery 氏の調査によると、2026 年第 2 四半期および第 3 四半期において、SEC (米国証券取引委員会) への重要インシデント報告件数はわずかな増加にとどまったのに対し、深刻度が「高」および「緊急」の CVE は数倍に増加しました。

筆者はこの事実を重く受け止めています。しかし、私たちはこれまでずっと、潮が満ちてからかなり時間が経つまで、その上昇を正しく測定することが苦手でした。2012 年、故 Ross Anderson 氏とその同僚たちは 100 以上のサイバー犯罪データソースを集計しましたが、そのすべてが「不十分かつ断片的」なものでした。Microsoft の研究者たちが示したように、調査において 5 万ドルの被害を主張する回答者が 1 人いれば、国全体での推定被害額は 100 億ドルに膨れ上がります。Anderson 氏のチームが 2012 年に推測した「サイバー犯罪は全犯罪の約半分を占める」という説が確認されたのは、2019 年になってからのことでした。Dan Geer 氏が指摘しているように、侵害の 70〜80% は第三者によって発見されているため、多くの被害者はその事実に一生気付かない可能性があります。

公衆衛生の分野にも、これとよく似た事例があります。1999 年から 2017 年の間に、米国での薬物過剰摂取による死亡率は 3 倍以上に増加し、死者数は年間 70,237 人に達しました。この人数は、地元の検視官が個別に記録した何千もの死亡事例が積み重なった結果であり、象徴となるような災害は発生していませんでした。米国が公衆衛生上の緊急事態を宣言したのは 2017 年 10 月になってからのことでしたが、その時点でも集計には誤りがありました。死亡診断書には薬物名が省略されていることが多く、オピオイドによる死亡者数は 20〜35% も過小評価されていたのです。飛行機事故は日没まで集計されます。一方、小さなインシデントの波が押し寄せる状況では、集計は数年後に行われ、しかも不正確なものになりがちです。最近のサイバー被害も同様の経過をたどっています。大規模なインシデントは存在せず、小規模なインシデントが絶え間なく増加しているのです。

また、苦労の末に得られたリスク軽減策も考慮する必要があります。ベンダー、保守担当者、セキュリティチームは、これまで見たことのないスピードでパッチを適用してきました。Mozilla だけをとってみても、AI を活用した取り組みによって 271 件の Firefox のバグを修正しました。また、ソフォスのエンジニアリングチームも、Glasswing や Daybreak への参加から浮き彫りになったバグの対応に全力を注いでいます。しかし、これはセキュリティ貧困ライン (security poverty line) 以下の組織、つまり、防御するための資金、専門知識、能力が不足している組織には当てはまりません。このような組織は、Form 8-K 報告書を提出することも、IR (インシデント対応) のリテーナー契約を結ぶこともありません。最もリスクにさらされている層こそが、最も測定できていない層なのです。

すでに把握しているシグナル

運用上のシグナルは、正式な測定結果よりもはるか前に現れます。10 月 19 日、元 NSA サイバーセキュリティディレクターの Rob Joyce 氏は「IR 企業は飽和状態にあり、依頼を断っている」と記しています。これはソフォスが目にしている状況とも一致しています。ソフォスの IR 部門もかつてないほど多忙を極めており、業界全体でキャパシティ不足が予測されています。

同様に、Google Threat Intelligence は 2026 年 1 月から 8 月までに 141 件の脆弱性が悪用されたと報告しました (2025 年全体では 127 件)。また、Anthropic の研究によると、2025 年に文書化された自律型攻撃パターンが「私たちが調査したすべての攻撃者グループに広まっている」ことが示されています。

さらに、報告のされ方にも偏りが存在します。脆弱性の発見は大々的に報じられます。研究者や AI ラボは、Project Glasswing が 1 か月で 1 万件以上の「高」または「緊急」レベルの脆弱性を発見したといった数字を公表しています。一方で、インシデントについては報じられません。Bitdefender の 2026 年の調査によると、セキュリティ侵害を受けた専門家の 55% が、報告すべきだと考えていたにもかかわらず口止めされたと回答しています。バグの発見を自慢する人はいても、侵害されたことを自慢する人はいません。

攻撃者にとっても AI の能力は不均一 (ギザギザ) である

AI の能力は「ギザギザのフロンティア (jagged frontier)」です。あるタスクでは非常に優れた能力を発揮する一方で、隣接するタスクには驚くほど弱いという特徴があります。防御側も攻撃側も、AI をまだ十分に活用できているわけではありません。RUSI (英国王立防衛安全保障研究所) の Will Lyne 氏と Jamie MacColl 氏は、AI は「(現時点では) サイバー犯罪のあり方を根本的に変革してはいない」と主張しています。なぜなら、犯罪者がビジネスモデルを変更するのは、利益のためにそうせざるを得ないときだけであるからです。Be'ery 氏も同様の主張をしており、ボトルネックは脆弱性ではなく、収益化とマネーロンダリングであるとしています。

どちらももっともな見解です。しかし、防御側にとっては嫌な見方ではありますが、ボトルネックとなっているのは「スキルのある犯罪者の数」であり、AI はまさにその人員不足を補える手段であるとも考えられます。

Sophos X-Ops の研究・調査によると、現在私たちはアーリーアダプターの段階にあります。地下フォーラムを監視したところ、明らかな知識のギャップが確認されました。犯罪者たちは仲介業者から API キーを購入し、基本的な設定について互いに助けを求めていました。1 年間にわたるソフォスの MDR 対応事例データによると、攻撃者が AI を使用していたケースでは、AI は「人間がコントロールするアシスタント」でした。実際の導入状況は、利用可能な AI の能力よりも遅れています。しかし、現時点でのギャップは普及曲線の始まりに過ぎず、誰かがビジネスモデルが確立しさえすれば、攻撃者はその能力を利用するだけです。

どう対処すべきか

まずは取締役会から始めましょう。セキュリティリーダーが今手に入れるべきは、法規制、契約、または財務といった他の領域で一定のリスクを許容するという合意です。これは、より大きなインシデントを回避する目的で、サービスの停止やテスト前のパッチ適用といった、ある程度の業務上の混乱を容認することを意味します。AI の脅威に関する大手メディアの報道は、大げさで不正確な場合もありますが、そのおかげで取締役会や CEO たちは普段よりもこの問題に耳を傾けるようになっています。この機を逃さずに、権限を確保してください。権限がなければ、以下のステップを実行できなくなってしまいます。

  1. 攻撃対象領域を縮小する: インターネットに接続している、必須ではないサービスを削除してください。残りのサービスは VPN、ZTNA、または認証プロキシの背後に配置し、エクスプロイトがアクセスできないようにします。アイデンティティも攻撃対象領域として扱ってください。フィッシング耐性のある認証は、アカウントにとっての同等の防御策となります (ソフォスのパスキープレイブックを参照)。
  2. パッチ適用プロセスから人間を外す: ソフォスの「AI セキュリティレポート 2026年版」では、脆弱性の公表から悪用までの猶予期間が数時間にまで短縮されていることが判明しました。Ivanti Sentry (CVE-2026-10520) は、公開された PoC (概念実証) から 24 時間以内に悪用され、LiteLLM (CVE-2026-42208) は 36 時間以内に悪用されました。CISA は連邦機関に対し、最もリスクの高い脆弱性に対する必須パッチの適用期間を 3 日間に短縮しました。稼働時間の要件が極めて厳しい環境であっても、ベンダーによる不適切なパッチ適用のほうが、通常はリスクが小さくなります。不適切なパッチは数時間でロールバックできますが、インシデントからの復旧には数週間を要します。ベンダーが自動更新機能を提供している場合は必ず有効にし、それ以外の部分についてはエージェントを使用してテストとステージングを行ってください。
  3. アラートを注視する: 現時点での自律型攻撃は、適切にハードニングされている標的に対してはノイズが多く、進行も緩やかです。Microsoft は、AI を悪用したある攻撃キャンペーンが 1 分間に 2,900 回サインインに失敗した事例を確認しています。ロイター通信の報道によると、1,200 以上の Web サイトに対して AI エージェントを使用したあるハッカーは、侵入に成功するまでに通常約 23 時間を要していました。これは、実効性のある対応能力を持つ組織にとってはチャンスとなります。対応能力がない組織にとっては、それを実現するための最速の手段となるのが MDR です。
  4. 自ら AI を活用する: これが最も重要です。フロンティア AI もなければ、トークンに十分な予算も割けないセキュリティチームは、片手を後ろで縛られた状態で戦っているようなものです。
    1. もしも資金を確保できた場合は、明確な権限と十分なトークンを割り当てることで、新規採用を行うよりもはるかに迅速に、既存のスタッフをスケールアップできます。

    2. エージェントにチャンスを与えてください。新入社員が最初の数週間から数か月間、業務に必要なツールを入手するためにアクセス権限の申請に追われ、足止めを食らっている様子を、誰もが目にしてきました。エージェントも同様です。これは組織文化の難しい課題であり、リスクとのトレードオフです。しかし、理論上のリスクが、差し迫っている危険を上回っているかどうかを自問してみてください。メディアで報じられる「暴走する AI」の事例は重要ではありますが、その多くは、ごく一部の組織しか真似できない規模と予算で、長期的に自律性をテストしている AI ラボで起きていることです。Joshua Saxe 氏は、プロンプトインジェクションによる損失は、サイバー被害全体の損失に比べればごくわずかであることを明らかにしました。適切な境界線を設けてエージェントを制御する一方で、アクセス権を制限しすぎないようにしてください。

    3. 懐疑派に機会を与えてください。多くのセキュリティ専門家は、元々新しいテクノロジーをいち早く取り入れるアーリーアダプタータイプではないため、彼らの意見はエントリーレベルの企業向けアシスタントや一般消費者向けチャットボットの経験に基づいています。彼らに適切なツールとそれらを試す余地を与え、一定のリスクを受け入れる権限を付与した上で、改めて評価を行ってください。

どこから始めるべきか

時には、始めること自体が難しい場合があります。ここでは、ソフォスが実際に成果を上げたアイデアをご紹介します。

  • エンドポイントの脆弱性: エージェントに資産インベントのソース、組織図、およびエンドポイント管理コンソールを与えます。保護されていないデバイスや設定ミスのあるデバイス (古い例外ルールを含む) を、リスク順にランク付けして見つけるように指示します。
  • 境界のリスク: 同じ資産データを脆弱性スキャン結果と統合し、エージェント専用の新しい AWS アカウントを割り当てます。リスクの高い境界サービスを特定する権限を与え、必要に応じて EC2 インスタンスを起動して、発見事項の調査、検証、優先順位付けを行わせます。
  • 未解決の修正事項: エージェントに、ソース管理、チケット発行、ドキュメント、既存の製品セキュリティツール、組織図、受信トレイ、チャットへのアクセスを許可します。チームごとの未解決の問題を、過去のコミュニケーションのタイムラインとともに抽出するよう指示します。
  • リスクレジスタとの乖離: エージェントに受信トレイ、チャット、最近の会議の録音を確認させ、取締役会レベルのリスクレジスタに明確に紐づけされていない、議論されたリスクを特定させます。

筆者は、2 月の OpenClaw に関する記事で次のように述べました。「あらゆるテクノロジーの導入と同様に、現実的なリスク管理が鍵となります。そして幸いなことに、私たちは皆、長い間それを実践してきました。」この言葉はここでも当てはまります。「タダで得られるものなどない」のです。上記のどのステップも、パッチの不具合であれ、不満を抱く顧客であれ、許容範囲を超えたアクセス権を持つエージェントの存在であれ、あるリスクを別のリスクと引き換えにしているのです。データが明確であればリスク管理は簡単です。優れたリーダーシップとは、エビデンスがまだ不完全な段階でも、決断に基づいて行動することです。ブリーチポカリプス (大侵害時代) の規模を容易に測定できるようになった頃には、それに備えるにはすでに手遅れになっているでしょう。