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2008 年頃から足踏みを続けるエクスプロイト対策と、進化し続けるサイバー攻撃

AI の登場により、パッチが公開された脆弱性はわずか数時間で悪用可能なエクスプロイトへと変貌しています。エンドポイントにおけるエクスプロイト対策が 2008 年以降停滞している理由、そして「デフォルトオン」の緩和策レイヤーの現状を解説します。

Mark Loman

前回の記事で私が最も強調したかったのは、「非対称性」です。攻撃のステップが 2 つであろうと 20 であろうと、攻撃者が利用する基本機能 (プリミティブ) の選択肢が増えるわけではありません。実行可能メモリの確保、制御フローの乗っ取り、プロセスの操作、認証情報の窃取、暗号化など、あらゆる攻撃はごく限られたプリミティブの組み合わせ (セット) にすぎません。こうしたプリミティブセットさえ防御できれば、攻撃の形態はもはや重要ではありません。

それ以降、この構図をさらに鮮明にする 2 つの動きがありました。一つは、攻撃者側の進化スピードが数値化されたこと、もう一つは、さまざまな AI ラボをはじめとする業界全体が、ソフォスが長年取り組んできたアプローチへとシフトし始めていることです。 

この 2 つの動きが相まって、ある不都合なギャップが浮き彫りになりました。それは、現在誰もが同意している解決策が、実際にほとんどの製品に実装されているものではないという事実です。

新たな現実: 「N 日」から「N 時間」への短縮

6 月、Anthropic のレッドチームは N 日脆弱性 (パッチは公開されているが、未適用のマシンでは悪用可能な脆弱性) に関する調査結果を公開しました。公開されているパッチだけを与えられた AI モデル「Mythos」は、その情報をもとに次々と実効性のあるエクスプロイトを作成していきました。具体的には、Firefox のパッチ 18 件から 8 つのコード実行エクスプロイトを、そして Windows カーネルのパッチ 21 件から 8 つの完全な権限昇格チェーンを作り出しました。 

ある Firefox の脆弱性にいたっては、1 時間足らずで実際に機能するエクスプロイトが生成されました。一方で、修正されたブラウザがユーザーの手元に届くまでに 18 日を要しました。Anthropic は、「『N 日』という言葉は実態を反映しておらず、現実には『N 時間』の方が近い」と結論付けています。

パッチがリリースされてから、実際にそのパッチによって保護されるまでの猶予は、今や時間単位にまで縮まっています。注目すべきは、同ラボが評価に jsshell を採用した点です。これは、エクスプロイトの検証をシンプルかつ信頼性の高いものにするために選ばれた、ブラウザのサンドボックスやプロセスの緩和策が適用されないスタンドアロンエンジンです。この選択こそが、まさに「緩和策こそが、確実な攻撃を不確実な攻撃に変える要素である」ということを暗に証明しています。攻撃の不確実性を高めることこそが、この防御レイヤーの役割です。

業界の潮流: さまざまな AI ラボが推奨する、ソフォスのアプローチ

6 月 22 日、OpenAI は、「脆弱性の発見はもはやボトルネックではなく、修正プログラムの提供こそがボトルネックである」という明確な前提のもと、自社のサイバー防御プログラム Daybreak の拡大を発表しました。ソフォスはそのパートナーに名を連ねています。 

Anthropic と OpenAI の両社が挙げる根本的解決策は共通しています。それは、重要なコードをメモリセーフなプログラミング言語へと移行し、エクスプロイトの手法そのものを一挙に無効化する緩和策を適用することです。Microsoft も 10 年以上前に同様の主張を展開し、「EMET」としてリリースしていました。防御側は、こうした AI の能力が今後 6〜24 か月以内に広く利用可能になることを想定して備える必要があります。これは、特定の AI モデルの話ではなく、テクノロジー全体のトレンドです

業界の結論はここに収束しました。つまり、個別のサンプルを追いかけるのではなく、エクスプロイトの手法そのものを根絶するのです。そこで浮かぶのは、「誰もが同意しているにもかかわらず、なぜほとんどのエンドポイントは未だにこの方法で保護されていないのか」という当然の疑問です。

カーネルのみに留まった  Microsoft のセキュリティ強化

過去 10 年間で、Microsoft はカーネルにおいて着実な構造的進歩を遂げました。Secured-Core PC における「仮想化ベースのセキュリティ (VBS)」や「ハイパーバイザー保護によるコードの整合性 (HVCI)」は、カーネルの悪用に対する防御水準を確実に引き上げました。これが実現できたのは、カーネルが「信頼され、デジタル署名され、Windows Hardware Quality Labs (WHQL) 認証に合格したコードのみが動く」制限された環境だからです。

しかし、ユーザーモードはその真逆です。ブラウザや Office ソフト、出所不明のダウンロードされた実行ファイルなど、ユーザーがインストールしたものは何でも実行しなければならないオープンな環境です。このレイヤーこそ、2008 年当時の対策のまま取り残されており、同時にソフォスが主戦場としている領域でもあります。

不都合なギャップ: 名ばかりの「エクスプロイト緩和策」

ほとんどのエンドポイント製品は、ユーザーモードにおけるプロアクティブな緩和策をデフォルトで提供していません。その防御策は、攻撃が実行されてから検知する「動作検知」に依存しています。「エクスプロイト緩和策」を謳った機能を提供している製品であっても、その中身は DEP の強制、ASLR の強制、SEH 上書き保護、Null ページ割り当て、ヒープスプレーの事前割り当てといった、従来の機能に留まっています。

導入された時期を見てみましょう。DEP は 2004 年、ASLR は 2007 年、SEHOP は 2008 年、Windows 8 の Null ページ保護は 2012 年です。最新の 64 ビットマシンでは、これらの保護機能は事実上すでにデフォルトで実装されています。今さらこれらのスイッチを入れ直したところで、変化はほとんどありません。最新の攻撃が実際に多用しているインジェクション、トークン窃取、防御回避、暗号化などの高度な手法に対しては、全くの無力です。

強力な最新の緩和策はすでに存在しています。しかし、それらは無効化されたままになっています。以下は、Get-ProcessMitigation を通じて Windows の実際のポリシーから直接取得したデータです。

Mitigation_count_per_Get-ProcessMitigation_-_June_2026.png

灰色は Windows のデフォルト設定です (4 つの緩和策)。紫色は開発者がオプトインする保護機能ですが、ほぼ皆無です。2 つの青色の帯がソフォスです。あらゆるプロセスを網羅する共通レイヤー (41 の緩和策) に加え、既知のソフトウェアに対するアプリケーション単位での強制適用を合わせ、合計 60 の緩和策を実装しています。最後の棒グラフが示す通り、マルウェアは Windows や開発者による対策のいずれにもオプトインしていませんが、ソフォスの全プロセス対象の 41 の緩和策には対応しています。これらの数値は本稿執筆時点の製品を反映したものであり、新たな緩和策の開発や、脅威環境に合わせた緩和策の廃止に伴って変化します。

ではなぜ、強力な緩和策が無効のまま放置されているのでしょうか。それには 3 つの構造的な理由があります。

  • オプトインという欠陥: Control Flow Guard (CFG) やハードウェアシャドウスタックは、アプリケーション開発者がコンパイル時に組み込まなければなりません。マルウェア作成者が自身のコードに Microsoft の保護をオプトインすることはありません。そして、ほとんどのアプリケーション開発者も同様です。
  • 管理上の負担: Microsoft のユーザーモードの「エクスプロイト対策」は、複雑な XML ファイルを介して個々の実行ファイルに緩和策をマッピングし、アプリケーションを 1 つずつテストすることで設定されます。このように負荷が大きいことから、Microsoft は 2020 年 12 月、「広範囲への強制適用は、メリットよりもデメリットのほうが大きい」として、MDM のセキュリティベースラインからこのエクスプロイト対策を削除しています。
  • 可視性の欠如: 管理者が緩和策を有効にしたとしても、Windows から得られる情報はごくわずかです。緩和策が作動するとトースト通知が表示されてイベントログが記録されるだけで、何かが破損した場合には「一般的なアプリケーションのクラッシュ」として処理されます。実用的なレポートが作成されるようにするには、別途 Defender for Endpoint のライセンスが必要です。ほとんどの管理者はそのリスクを許容できないため、結果としてこの機能は無効化されたままになります。

プラットフォームベンダーが自社の高度な緩和策を大規模に有効化できない環境において、単に同じスイッチを再提示するだけのセキュリティ製品では、問題を解決できません。

防御レイヤーの進化とは

ソフォスは別のアプローチを採用しました。オペレーティングシステムの設定スイッチを単に再提示するのではなく、プラットフォームそのものが動作するレベルで機能する、新たな緩和策を独自に構築しました。これは、ソフトウェアのエコシステムを破壊するリスクがなければ、OS自体が全面的に強制適用するであろう対策です。これらは、わずか数時間で独自のエクスプロイトを作成するようになった AI 時代の脅威に対抗するために設計されたセキュリティコントロールです。このレイヤーには 4 つの強みがあり、ソフォスの知る限り、そのすべてを備えているベンダーは他にありません。

1.オペレーティングシステムの深さで機能する独自技術。特許取得済みのものを含む 60 の緩和策により、通常はプラットフォームの役割であるメモリ、制御フロー、およびプロセスの完全性が強制適用されます。Anthropic が推奨する根本的修正策には、CFG やハードウェアシャドウスタックなどがありますが、これらはアプリケーション開発者がコンパイル時に組み込む必要があります。また、シャドウスタックには Control-flow Enforcement Technology (CET) 対応のハードウェアも必要です。図が示す通り、実際にはほとんどが無効化されています。一方、ソフォスは独自に強制適用を行うため、再コンパイルも特定のチップも必要としません。

2.デフォルトオン、高い可視性、高度な管理運用。正規のコードに対して緩和策が誤作動した場合、詳細なサムプリントが生成されます。ソフォスは「正常と確認された例外」を承認し、(多くの場合、ユーザーがサポートに問い合わせるよりも前に、) クリーンな状態をグローバルに反映させます。このベンダー側による管理により、アプリケーションを破損させることなく、強力な緩和策をデフォルトで有効にすることができます。また、ユーザーは Windows が隠している情報も確認できるようになります。すべての緩和イベントは、何が、どのプロセスで、どこから実行されたコードによってトリガーされたかを示す、詳細なレポートとして提供されます。イベントログからクラッシュをリバースエンジニアリングする必要はありません。強制適用の可視化と、その背後にある管理された例外処理プロセスは、まさに OS の緩和策では提供できない機能です。

3.既知・未知を問わない、全プロセスへの自動適用。従来のエクスプロイト緩和策は、管理者が設定した既知のアプリケーションのみを保護対象としていました。ソフォスの緩和策は、それらに加えて未知の実行ファイルにも等しく適用されます。オプトインの手間なく、すべてのプロセスをカバーします。ユーザーのアプリケーションにとっては強固な盾となり、マルウェアにとっては逃げられない罠となります。

4.攻撃チェーン全体を遮断する、プリミティブレベルの防御。攻撃型 AI がもたらす脅威は、エクスプロイトの作成時間を短縮するだけではありません。最新のフロンティアモデルは、初期アクセスから始まるサイバー攻撃のさまざまな段階を自動化する「エージェント型ハッキング」において、高い能力を示しています。人間の攻撃者や AI 支援ツールは、静的スキャナーをすり抜けるために高度に難読化されたコードや未知のコードを今後も生成し続けるでしょう。だからこそ、ソフォスは攻撃そのものの認識に頼りません。初期アクセスから被害発生に至るまで、あらゆる攻撃が必ず実行しなければならない、一握りのプリミティブを遮断します。

例えば実行段階では、動的シェルコード保護により、プロセスが自らのイメージやロードされた DLL の範囲を超えて確保できる実行可能メモリの量を制限します。被害発生段階では、CryptoGuard がファイル内の暗号化の数学的フィンガープリント、すなわち構造化されたドキュメントが均一で最大エントロピーのノイズへと崩壊していく状態を監視します。ランサムウェアが Windows の暗号化 API を使用していようが、独自の API を使用していようが、あるいは別マシンからランサムウェアが実行されていようが、その被害を検知して元の状態にロールバックします。これら防御の間には、カーネルレベルの権限昇格防止や、認証情報およびセッションの保護など、さまざまな対策が組み込まれています。

動作検知は確率的なものであり、一連のイベントを観察しては、それが疑わしいかどうかを判断します。しかし、人間の攻撃者や AI ツールが行う難読化は、まさにその判断を回避するように設計されています。一方、プリミティブ緩和は決定論的です。実行の時点で、構造的/数学的な厳しい制約を強制適用します。

この防御レイヤーの限界

このレイヤーは万能の盾ではありません。Anthropic も指摘している通り、「摩擦」を増やすだけでは、低コストで大量の攻撃を仕掛けてくる AI モデルに対しては効果が弱まる可能性があります。だからこそ、このレイヤーの核心は単なる摩擦ではなく、メモリ、制御フロー、およびデータの完全性に対する厳格な制約にあるのです。摩擦はハードルを上げるだけですが、厳格な制約は攻撃手段そのものを排除します。

このレイヤーもまた、1 つのレイヤーに過ぎません。脅威の緩和策は、多層防御ソリューションの 1つの構成要素であり、他の部分にもそれぞれ重要な役割があります。検知機能や機械学習は、すり抜けてしまった脅威を捕捉します。動作検知は、すでに侵入を許してしまった後の動きに対処します。アイデンティティコントロールは、エンドポイントを完全に迂回する攻撃ルートを防御します。現在、多くの攻撃者がこの迂回ルートを利用しています。脆弱性を一切悪用せずに、MFA が導入されていない所で情報窃取型マルウェアを使用して収集した認証情報でログインしたり、MFA を素通りするセッションクッキーを盗み出したりしています。

しかし、実際に標的マシンに到達する攻撃の圧倒的多数は、一般的なペイロードとして到達しようと、侵害されたサプライヤーを経由しようと、あるいは管理対象外のマシンからのファイルを暗号化しようと、同じ少数のプリミティブを再利用したコードです。まさにこれこそが、デフォルトオンなプリミティブ層が阻止する対象です。

この防御レイヤーの位置付け

攻撃型 AI によって、攻撃者が脆弱性を発見する方法や武器化するスピードは今後も変わり続けるでしょう。しかし、あらゆる攻撃で使用されるごく少数のプリミティブの本質はほとんど変わりません。パッチ適用の猶予が数時間にまで縮まる中、プリミティブそのものに変化はありません。無効化されている緩和策は緩和策とは言えません。そして、セキュリティ成果を左右するのは、「保護機能をデフォルトで有効にし、その状態を維持し続ける」という、地味ながらも重要な取り組みです。その時代に適合するよう構築された緩和策レイヤーは、2008 年で進化を止めたわけではありません。それは、すでにここに存在しています。

すべてのプロセスに対して、60 種類のエクスプロイト緩和策をデフォルトで有効化している Sophos Endpoint の仕組みをぜひご確認ください。詳しくは sophos.com/endpoint をご覧ください。

本記事は「AI が脆弱性を見つけても、攻撃が成功するとは限らない理由」の続編です。